俳人名鑑

九鬼あきゑ(くき あきえ)

 昭和17年(1942)〜平成31年(2019)76歳。 静岡県生れ。 「椎」主宰。

 原田喬、加藤楸邨に師事。昭和41年原田喬に俳句を学ぶ。昭和42年「寒雷」入会。昭和56年同人。昭和50年「椎」創刊に参加。編集に携わる。平成11年主宰を継承。

 句集:『海月の海』『湾』『夭夭』『九鬼あきゑ句集』『海へ』

     いちめんに光の海よ田打ちをり

     紅蓮天上をいま櫂の音

     朱の扉押したる先が春の山

     音たてて大山蓮華崩れけり

     君ら皆なづなたんぽぽ卒業す

 

草間時彦 (くさま ときひこ) 

大正9年(1920)〜平成15年(2003)83歳。 東京都生まれ。 
 秋桜子,波郷に師事。元「鶴」同人。俳句文学館の建設に尽力、俳人協会理事長を務めた。俳人協会顧問。第14回詩歌文学館賞。第37回蛇笏賞受賞。

 句集:『中年』『淡酒』『桜山』『朝粥』『夜咄』『典座』ほか

      冬薔薇や賞与劣りし一詩人

      さうめんの淡き昼餉や街の音

      甚平や一誌持たねば仰がれず

      年寄は風邪引き易し引けば死す

      桜咲くを病みて見ざりき散るときも


 

楠本憲吉 (くすもと けんきち)

 大正11年(1922)〜昭和63年(1988)65歳。 大阪府生まれ。東京都在住。

 日野草城に師事。草城を擁し「まるめろ」創刊。また慶大在学中「慶大俳句」を組織。草城の「青玄」無鑑査同人。「俳句評論」創刊同人。昭和44年「野の会」創刊主宰。父は大阪の有名料亭「なだ万」三代目当主の楠木萬助。※慶應義塾大法学部及び文学部仏文科。國學院大大学院(日本文学)博士課程出身

 句集:『隠花植物』『弧客』『楠本憲吉全句集』   著作:『戦後の俳句』ほか多数。

      弾き出すバッハ露びっしりと女学校

      汝が胸の谷間の汗や巴里祭

      夏霧やしなやかに行く一馬身

      背後より薔薇の一撃 喜劇果つ

      沙翁忌の生き永らえし男かな

 

久保純夫 (くぼ すみお)

 昭和24年(1949) 大阪府生まれ。 「儒良」

 鈴木六林男に師事。昭和46年「花曜」入会・ 編集長を長年務めた。平成18年同人誌「光芒」を創刊するも10号で終刊。平成25年「儒良」創刊。第8回花曜賞・第15回六人の会賞・第42回現代俳句協会賞受賞。 

 句集:『瑠璃薔薇館』『水渉記』『聖樹』『熊野集』『比翼連理』『光悦』『フオーシーズンズ++』『美しき死を真ん中の刹那あるいは永遠』(共著)・『久保純夫句集』『日本文化私観』『HIDEWAY』『定点観測−櫻まみれー』『植物図鑑』 著作:『スワンの不安』

      青熊野精虫騒ぐところかな

      麦踏むと天皇制が立ち上がる

      帝国の梯子しずかに朽ちゆけり

      あまがみのあぶなうえのあとあまるがむ

      肉体を水の途中と想いけり>

 

久保田慶子 (くぼた けいこ)

 大正13年)1925)〜平成16年(2004)79歳。  東京都生まれ。 「寒雷」・「笙」主宰

 加藤楸邨に師事。「寒雷」に入会,同人に。同人会副会長を務める。夫は俳人の久保田月鈴子。第2回サンケイ俳句賞。第30回現代俳句協会賞受賞。

 句集:『不思議』『九月』『笙』

     母は歌ふ真赤な夕日の満州を

     月光に入歯屋の棚不思議かな

     考える葦ともならず鬼やらふ

 

久保田万太郎 (くぼた まんたろう)

 明治22年(1889)〜昭和38年(1963)73歳。 東京生まれ。  

 松根東洋城に師事。慶應三田俳句会に参加。昭和9年いよう句会を結成、晩年も指導を続けた。戦後昭和21年「春燈」創刊主宰。小説家。戯曲作家。劇団「文学座」の結成に携わる。日本演劇協会会長・日本芸術院会員・文化功労者。第4回菊地寛賞・NHK放送文化賞・読売文学賞・文化勲章受賞。*慶應義塾大学文学科出身

 句集:『道芝』『草の木』『流寓抄』『久保田万太郎全句集』ほか 著作:『久保田万太郎全集全18巻』他多数。

      神田川祭りの中をながれけり

      竹馬やいろはにほへとちりぢりに

      芥川龍之介仏大暑かな

      おもふさまふりてあがりし祭かな

      時計屋の時計春の夜どれがほんと

      何もかもあつけらかんと西日中

      湯豆腐やいのちのはてのうすあかり

 

熊谷愛子 (くまがい あいこ) 

 大正12年(1923)〜平成27年(2015) 石川県生まれ。静岡県在住。  「逢」主宰・「頂点」「寒雷」

 楸邨に師事。昭和29年「寒雷」入会、同人。「頂点」同人。昭和62年「逢」創刊。米寿を迎え平成22年で終刊を決定。第5回頂点賞・第53回現代俳句協会賞受賞。

 句集:『火天』『水炎』『施風』『地燭』

      原罪の股ぐら熱し実梅採り

      十二月八日かがみて恥骨あり

      ほうたるよせつせつ水も炎(ほむら)なす

      寅さんが逝く一突きのところてん

      百合反らせ妻のけぞらせ遺影かな

 

      

隈 治人 (くま はると)

 大正4年(1915)〜平成2年(1990)74歳。 長崎県生まれ。
 「かびれ」に学ぶ。「海程」創刊同人。「土曜」創刊主宰。第12回現代俳句協会賞受賞。*長崎医大附属薬学専門部(現長崎大学)出身

 句集:『隈治人句集』『原爆百句』『柔和な雲』ほか

     銃殺おわる雪野にやさしい牛を容れ

     冬田の謀議一撃で足る頭寄せ

     雲が首灼く浦上花をもつと蒔こう

     埋没の一燭めざす枯野を負い

 

倉田紘文 (くらた こうぶん) 

 昭和15年(1940)〜平成26年(2014)74歳。 大分県生まれ。 「蕗」主宰

 高野素十に師事。昭和34年「芹」入会、同人。昭和47年「蕗」創刊。別府大学名誉教授。大分合同新聞文化賞・第39回久留島武彦文化賞受賞。※大分大学学芸学部出身。

 句集:『慈父悲母』『光陰』『無量』『都忘れ』『帰郷』『水輪』  著作:『高野素十の世界』ほか

     紅葉谷といふところより人来る

     秋の燈にひらがなばかり母の文

     螢待つ闇を大きく闇つつむ

     歩きつつ人遠ざかる秋日かな

     高き木の高きを吹きて春の風

     音の中水輪の中に滴れる

 

倉橋 羊村(くらはし ようそん)

 昭和6年(1931)〜令和2年(2020)88歳。 神奈川県生れ。

 水原秋櫻子に師事。昭和27年「馬酔木」入会。昭和33年藤田湘子の「鷹」創刊に参加。編集長を歴任。のち退会して「波」に移り主宰となる。平成27年名誉主宰。現代俳句協会顧問歴任。第2回日本詩歌句大賞・ 第21回日本文芸大賞受賞。※青山学院大経済学部出身。

 句集:『渾身』『愛語』『有時』『打坐』『幻華』 著作:『水原秋櫻子』『俳壇百人 上下』ほか多数。

    つきささる光となりて枯るるなり

    かなかなや陰画となりし兵の列

    晩年の全景ならむ裸の木

    はみ出してゐてもわが道西行忌

    遊び紐がよし甚平も晩年も

    目を瞑りても凍鶴となりきれず

 

栗生純夫 (くりゅう すみお)

明治37年(1904)〜昭和36年(1961)56歳。 長野県生まれ。「科野」創刊主宰。

 臼田亜浪に師事。「石楠」最高幹部のひとり。昭和21年「科野」創刊。終生実作者の立場で一茶の研究,新資料の発掘にも尽した。須坂市名誉市民。

 句集:『山帰来』『大陸諷詠』『山路笛』『科野路』『科野』ほか

     炭馬のおほきな顔へ雨のつぶ

     指すもの何ならん橇逸り出

     しんしんと柱が細る深雪かな

     稲架解けばすなはち千曲奔騰す

     田植うるは土にすがれるすがたせり

 

栗田やすし (くりた やすし)

 昭和12年(1937)旧満州に生れる。愛知県在住。  「伊吹嶺」名誉主宰。

 沢木欣一、細見綾子に師事。昭和33年「岐大二十才句会」で俳句を始める。昭和41年「風」入会。同人を経て平成10年「伊吹嶺」創刊主宰。平成30年主宰を退く。俳人協会顧問。第15回俳人協会評論賞・第49回俳人協会賞受賞。

 句集:『伊吹嶺』『遠方』『霜華』『海光』『半寿』 著作:『河東碧梧桐の基礎的研究』

     紙を漉く紙とならざるもの滴らし

     流燈会われも流るる舟にゐて

     滝凍てて全山音を失へり

     寒月が鵜川の底の石照らす

     負け牛の目の血走れる炎暑かな

 

栗林一石路 (くりばやし いっせきろ)

 明治27年(1894)〜昭和36年(1961)66歳。 長野県生まれ。
 井泉水に師事。句作でファシズムを批判。新興俳句弾圧事件に巻き込まれ終戦まで拘禁される。新俳句人連盟を結成,初代幹事長。

 句集:『シャツと雑草』『栗林一石路句集』

     シヤツ雑草にぶつかけておく

     屋根屋根の夕焼くるあすも仕事がない

     なにもかも月もひんまがつてけつかる

     父祖の地に杭うちこまる脳天より

     ながい戦争がすんだ簾をかけた

     死にゆく妻の足うらのよごれ拭いてやる

   

 

栗林千津 (くりばやし ちづ)

 明治43年(1910)〜平成14年(2002)92歳。 栃木県生まれ。宮城県在住。 「船団」「小熊座」
 遠藤梧逸、佐藤鬼房に師事。昭和32年梧逸の「みちのく」入会。昭和39年「鶴」入会、のち「鷹」などを経て鬼房の「小熊座」同人。「船団」にも参加。みちのく賞・第33回現代俳句協会賞受賞。※旧制宇都宮第一高女出身。

 句集:『のうぜん花』『命独楽』『水の午後』『火を枯れを』『祈り』『幌』『羅紗』『蝶や蜂や』『栗林千津句集』『湖心』『鮫とウクレレ』

    鬼灯が山川を超え行く日なり

    梢にさす林檎の輪切り魔法の木

    ひたたきは姉よ兄よと屈折す

    春は名のみ帆の如く来て埋骨す

    夏葱は遺書の余白に似てゐたり

 

黒川悦子 (くろかわ えつこ)

 昭和22年(1947)〜令和5年(2023)75歳。福岡県生れ。兵庫県在住。 「ホトトギス」「円虹」

 稲畑汀子に師事。昭和60年「ホトトギス」に入会、のち同人。田畑美穂女の指導も受ける。平成7年「円虹」創刊に参加。※同志社女子大大学院博士課程出身。

句集:『若葉風』 著作:『子規の小函』

    いつ雪に変はる雨やも東山

    チューリップしどろもどろに散りゆける

    寒そうな脚が階段下りてくる

 

黒田杏子 (くろだ ももこ)

 昭和13年(1938)〜令和5年(2023)84歳。 東京都生まれ。 「藍生」主宰・「件」
 山口青邨に師事。元「夏草」同人。平成2年「藍生」創刊主宰.夏草新人賞・夏草賞・第6回現代俳句女流賞・第5回俳人協会新人賞・第35回俳人協会賞・第1回桂信子賞・第45回蛇笏賞・第20回現代俳句大賞受賞。大田原市名誉市民。※東京女子大文学部心理学科出身。

 句集:『木の椅子』『水扉』『一木一草』『花下草上』『日光月光』『銀河山河』『八月』  著作:『今日からはじめる俳句』『あなたの俳句づくり』『現代俳句鑑賞』『俳句をはじめてみませんか』『証言 昭和の俳句』『金子兜太養生訓』『俳句列島日本すみずみ吟遊』『手紙の歳時記』『暮しの歳時記』ほか

    白葱のひかりの棒をいま刻む

    磨崖佛おほむらさきを放ちけり

    縄とびの子が戸隠山へひるがへる

    能面のくだけて月の港かな

    稲光一遍上人徒跣

    一の橋二の橋ほたるふぶきけり

    花に問へ奥千本の花に問へ

    飛ぶやうに秋の遍路のきたりけり

    いちじくを割るむらさきの母を割る

    日光月光すずしさの杖いつぽん

    涅槃図をあふるる月のひかりかな

    みちのくの花待つ銀河山河かな

    花巡るいつぽん杖ある限り

    父の手紙父への手紙束涼し

 

桑原三郎 (くわばら さぶろう) 

 昭和8年(1933) 埼玉県生まれ。 「犀」代表
 赤尾兜子に師事。「馬酔木」「野火」に投句。中断後昭和46年「つばさ」創刊に参加、編集人。「俳句評論」,「渦」同人を経て昭和57年「犀」創刊。第27回現代俳句協会賞・第4回六人の会賞受賞。

 句集:『春亂』『花表』『龍集』『晝夜』『魁星』『不断』『夜夜』『だんだん』

     初蝶に沈黙術を用ゐけり

     補陀落のそらうすぐらきさくらかな/P>

     倒れしは一生涯のガラス板 

     たけなはの春や昔の歯磨粉

     長生きの象を洗ひぬ天の川

 




 

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