俳人名鑑

前川弘明 (まえかわ ひろあき)

 昭和10年(1935)長崎県生れ。 「海原」

 金子兜太に師事。昭和37年「海程」創刊同人。平成15年「拓」創刊。第17回九州俳句賞・第27回海程賞・第65回現代俳句協会賞・第28回長崎県文学賞・第21回鬣TATEGAMI俳句賞受賞。

 句集:『草に上の午餐』『柵の中の風船』『樹の下の時間』『月光』『緑林』『蜂の歌』

    鵙日和まっすぐ古書店まで歩く

    水平線のように朝寝しておりぬ

    花の雨ガス管に家つながれて

    花見酒バンザイをしてみな倒る

    飛込みのみんな十字架のかたち

 

前田霧人 (まえだ きりひと)

 昭和21年(1946)香川県生れ。 大阪府在住。 「天街」「草樹」

 「京大俳句」「十七音詩」「火星」「草苑」を経て「天街」同人。「草樹」会員。現代俳句協会会員。第7回山本健吉文学賞(評論部門)受賞。

 句集:『えれきてる』  著作:『鳳作の季節』

     夜桜は触るるそばより壊れけり

     戻れぬ橋いくつ渡りしつくつく法師

     風鈴の乱れる闇に眠りけり

     

 

前田吐実男 (まえだ とみお)

 大正14年(1925)〜平成31年(2019)93歳。 新潟県生れ。神奈川県在住。  「夢」主宰。

 小学校時代から句作。石塚友二の影響を受ける。「秋刀魚」「地平」同人を経て「夢」創刊。第55回現代俳句協会賞・第2回俳句四季特別賞受賞。

 句集:『妻の文句』『夢』『鎌倉抄』『鎌倉是空』『くだくだ是空』『俺、猫だから』

    

    猫が出た穴があるだけ春炬燵

    大寒の橋を渡ればあしたなり

    人月や嘘つく人に逢いにゆく

    鎌倉や猫寺藪蚊さるすべり

    ひまわり一本そっぽ向いてる俺みたい

 

前田 弘 (まえだ ひろし)

 昭和14年(1939)大阪府生れ。 『歯車』代表

 鈴木石夫に師事。「風(のちの歯車」創刊に参加。平成18年「歯車」代表。現代俳句協会顧問。第66回現代俳句協会賞受賞。

 句集:『掌の風景』『光昏』『余白』『まっすぐ、わき見して』

     若水を生まれる前の母が汲む

     一度だけ産んでもらいし昭和かな

     畳屋に青大将を下げて行く

 

前田普羅 (まえだ ふら)

 明治17年(1884)〜昭和29年(1954)70歳。 東京生れ。 

 虚子に師事。大正2年、俳句界に二人の新人を得たり(もう一人は石鼎)と虚子に言わしめ華々しくデビューした。昭和4年「辛夷」主宰。戦後は孤独のうちに病没。*旧制開成中学(現開成高校)出身  早大英文科に学ぶ。

 句集:『普羅句集』『春寒浅間山』『飛騨紬』『能登蒼し』ほか

      駒ヶ嶽凍てゝ巌を落しけり

      奥白根かの世の雪をかがやかす

      立山のかぶさる町や水を打つ

      雪解川名山けづる響かな 

      オリオンの下の過失はあまりに小

      茅ヶ岳霜とけ径を糸のごと 

      凍蝶の地掻く夢のなほありて

 

正岡子規 (まさおか しき)

 慶応3年(1867)〜明治35年(1902)35歳。 愛媛県生れ。東京都在住。 

 東大を中退し新聞「日本」に入社。俳句欄を創り、虚子・碧梧桐を擁し俳壇の一大勢力となる。短歌,新体詩,写生文でも活躍。結核に侵されながら強靭な精神力、文学革新に対する情熱を最後まで持ちつづけた。*旧制第一高等中学校本科出身  東大文科に学ぶ。

 句集:『獺祭書屋俳句帖抄 上』『春夏秋冬』 著作:『獺祭書屋俳話』『俳諧大要』『俳人蕪村』『墨汁一滴』『仰臥漫録』『病状六尺』『子規全集』ほか

     柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

     いくたびも雪の深さを尋ねけり

     三千の俳句を閲し柿二つ

     鶏頭の十四五本もありぬべし

     糸瓜咲て痰のつまりし仏かな

 

正木浩一 (まさき こういち)

 昭和17年(1942)〜平成4年(1992)49歳。 中国・青島生れ。熊本県在住。 「沖」

 能村登四郎に師事。昭和47年「沖」入会。同人。平成3年発病、一年閧フ闘病の甲斐もなく急逝。沖新人賞受賞。

 句集:『槇』、遺句集『正木浩一句集』*妹、正木ゆう子の編纂による。

      すれ違ふべき炎天の人遥か

      うつし世に蛇の衣ぬぐしじまあり

      わが死後へ澄みゆく梅酒漬けにけり

      冬木の枝しだいに細し終に無し

 

正木ゆう子 (まさき ゆうこ)

 昭和27年(1952) 熊本県生れ。埼玉県在住。 「紫薇」

 能村登四郎に師事。昭和48年「沖」入会。同人を経て、「紫薇」同人。第14回俳人協会評論賞・第53回芸術選奨文部科学大臣賞・第51回蛇笏賞・第75回読売文学賞受賞

 句集:『水晶体』『悠HARUKA』『静かな水』『夏至』『羽羽』『玉響』  著作:『起きて,立って、服を着ること』『十七音の履歴書』ほか

     螢狩うしろの闇へ寄りかかり

     かの鷹に風と名づけて飼ひ殺す

     水の地球すこしはなれて春の月     

     オートバイ内股で締め春満月

     やがてわが真中を通る雪解川

     春の月水の音して上りけり

     真炎天原子炉に火も苦しむか

     十万年のちを思へばただ月光

 

増田河郎子 (ますだ かわろうし)

 昭和4年(1929)〜平成28年(2016) 三重県生れ。 「南風」主宰

 山田麗眺子に師事。昭和35年「南風」入会。主宰の死去により平成6年「南風」継承主宰。

 句集:『』

      死にもせず人が減りゆく霧の村

      直立の滝林立の杉の奥

      贋作を掛けて端午の祝いかな

 

増田まさみ (ますだ まさみ)

 昭和12年(1937) 鳥取県生れ。兵庫県在住。 

 高校時代自由律俳句を学ぶ。20代伊丹三樹彦の「青玄」に入会。昭和50年稔典の「現代俳句」創刊に参加。のち同人誌「幻想時計」「日曜日」を創刊するも平成17年終刊。以後無所属。親密な交流のあった永田耕衣を心の師とし敬愛する。第5回スエーデン賞・ソニー中新田賞・ブルーメール賞受賞。

 句集:『ルソーの森深く』『季憶・Memories』『冬の楽奏』『ユキノチクモリ』『遊絲』『止まり木』  著作:詩集『プロッタージュの沼』

     サルトルや鯨や釘や春の沖

     電球をくわえ冬川流れけり

     母と観る地下水脈に散るさくら

     日盛りや死はとりどりに傘さして

     みな老いて半鐘を聴く捩れ花

     春昼に産みつけられし老婆かな

 

松井利彦 (まつい としひこ)

 昭和2年(1927)〜平成18年(2006) 岐阜県生れ。  

 山口誓子に師事。昭和29年「風」同人。昭和35年「天狼」同人。昭和56年から終刊の平成6年まで「天狼」編集長。「天伯」創刊主宰。文学博士。※立命館大・名古屋大学大学院出身

 句集:『紙すきうた』『鵜飼川』『美濃の国』  著作:『近代俳論史』『正岡子規の研究』 ほか多数。    

         遊舟に灯が点く鵜川暮れざるに

         下流より見る鵜篝は太古の火

         布烏帽子鵜匠尖らす鵜飼前

 

 松井貴子 (まつい たかこ)

 昭和38年(1963) 岐阜県生れ。神奈川県在住。 「天為」

 山口誓子、有馬朗人に師事。「天狼」に学ぶ。「天為」「天伯」同人。父は松井利彦氏。学術学博士(東大)比較文学比較文化専攻。日本比較文学会賞受賞。

 著作:『写生の変容ーフォンタネージから子規、そして直哉へ』『志賀直哉の母親たち」』ほか

     停電の海や鯨が股ぐらに

 

松尾隆信 (まつお たかのぶ)

 昭和21年(1946) 兵庫県生れ。神奈川県在住。  「松の花」主宰

 上田五千石に師事。高校時代から俳句誌に投句。「閃光」「七曜」「天狼」「氷海」を経て、上田五千石の「畦」に入会。平成10年「松の花」創刊主宰。

 句集:『雪渓』『滝』『おにおこぜ』『菊白し』『はりま』『松の花』『美雪』『弾み玉』『星々』 著作:『上田五千石私論』他。

      青春の病む胸飾るぼたん雪

      おにおこぜ徹頭徹尾おにおこぜ

      はりまにははりまのくにのてまりうた 

      鯛焼の五匹と街を行きにけり

 

松岡貞子 (まつおか さだこ)

 大正6年(1917) 兵庫県生れ。東京都在住。  「夢幻航海」

 高柳重信に師事。「俳句評論」「羊歯」同人

 句集:『氷笛』『桃源』

    元日の水欲しき沼ばかり見ゆ

    人の死や井戸の廻りを如何にせむ

    眠りつつ春の狐を奉る

    人の死は一日がかり花蓆

 

松崎鉄之介 (まつざき てつのすけ)

 大正7年(1918)〜平成26年(2014)95歳。 神奈川県生れ。 「濱」元主宰

 はじめ「馬酔木」に投句。のち、「石楠」入会。大野林火に師事。昭和22年「濱」同人参加、一時編集を担当する。昭和57年林火の死去により「濱」を継承主宰した。平成25年終刊。俳人協会会長を歴任。俳人協会顧問。石楠賞・第22回俳人協会賞・第18回詩歌文学館賞受賞。※旧制横浜商専(現・横浜市立大)出身。

 句集:『歩行者』『鉄線』『信篤き国』『玄奘の道』『巴山夜話』『長江』『黄河』『花楷樹』  著作:『濱俳句の系譜』      

      信篤き国に来たりぬ花楷樹

      ただ灼けて玄奘の道つづきけり

      驢馬に乗る子に長江の日永かな   

      象泳ぐ秋の出水のメコン河

      小さき町のその町だけの花火かな

 

松崎 豊 (まつざき ゆたか)

 大正10年(1921)〜平成18年(2006) 福井県生れ。東京都在住。  「面」

 森川暁水,三谷昭に師事。「面」「雷魚」同人。

      古人形児島高徳木に凭れ

      もちあるく葉月なか日の籠枕

      だしぬけに茂吉の馬穴明易し

 

松澤 昭 (まつざわ あきら)

 大正14年(1925)〜平成22年(2010)85歳。 東京都生れ。 「四季」名誉主宰

 飯田蛇笏に師事。「雲母」同人。石原八束と東京に「青潮会」を創り、「雲母」の青年俳人の拠点としての役割を果す。八束の「秋」創刊に参画。のち、「四季」を創刊主宰。平成16年主宰を雅世に譲る。第4代現代俳句協会会長を経て特別顧問。第8回現代俳句大賞受賞。※法政大経済学部出身

 句集:『神立』『安曇』『父ら』『山処』『安居』『麓人』『面白』『乗越』『飛』『松澤昭全句集』ほか

      凩や馬現れて海の上

      夜は子の眼しきつめ流氷期

      春塵をかぶり一億より出づる

      たましひのいたるところに泳ぎつく

      天上のやうに耕しはじめたる

 

松瀬青々 (まつせ せいせい) 

 明治2年(1869)〜昭和12年(1937)67歳。 大阪市生れ。

 一時「ホトトギス」の編集に当たるも、帰阪し明治34年「宝船」(のち「倦鳥」)創刊主宰。関東のホトトギスに対立し、関西俳壇に君臨した。

 句集:『妻木』『鳥の巣』『松苗』

      鳥倦んで春漲るや淀の橋

      玉虫の厨子により見る薄暑かな

      氷浮く耳成山の野蔭かな

      桃の花を満面に見る女かな

      日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり

 

松田ひろむ (まつだ ひろむ)

 昭和13年(1938)高知県生。東京都在住。  「鴎座」代表 

 高校時代より句作.「氷海」などに投句。昭和47年年古澤太穂に師事。「鷹」「道標」「俳句人」同人。平成13年「鴎座」創刊。第5回道標賞・第9回新俳句人連盟賞・道標同人賞・第28回現代俳句評論賞受賞。

 句集:『黄海』『飛景』『游民』『一日十句』 著作:『入門詠んで楽しむ俳句16週間』『一番やさしい俳句再入門』

     海の雫冷ゆる爆薬庫の沖縄

     ベトナムパネル吊りおだまきの点(とも)り花

     白息を機械に交わす仮眼覚め

     白鳥なり大川小学校津波の子

     肉体のかくもミケランジェロ冬へ

 

松根東洋城 (まつね とうようじょう

 明治11年(1878)〜昭和39年(1964)86歳。東京生れ。 

 夏目漱石に師事。国民新聞の国民俳壇を虚子から引継ぎ蛇笏や喜舟らを指導した。大正4年「渋柿」創刊。のち野村喜舟に「渋柿」を譲る。芸術院会員。*京都帝大法科出身

 句集:『東洋城全句集・全3巻』 著作:『黛』『俳諧道』ほか

     黛を濃うせよ草は芳しき

     渋柿の如きものにて候へど

     海の中に桜さいたる日本かな

     冬木より人の淋しく住む戸かな

 

松林尚志 (まつばやし しょうし)

 昭和5年年(1930)〜令和4年年(2022)92歳。長野県生れ。「木魂」代表・「海源」 

 滝春一、金子兜太に学ぶ。第4回現代俳句協会評論受賞。※慶應義塾大学経済学部出身。

 句集:『方舟』『冬日の藁』『山法師』 著作:『詩歌往還 遠ざかる戦後』『俳句に憑かれた人たち』『古典と正統』ほか多数。詩集:『木魂集』ほか

    よろけては春の真中を行く棒か

    夢醒めた冬日の藁でありしかな

    春雷や影の男がたたら踏む

    三界に長居いつまで穴まどひ

 

松根東洋城 (まつね とうようじょう

 明治11年(1878)〜昭和39年(1964)86歳。東京生れ。 

 夏目漱石に師事。国民新聞の国民俳壇を虚子から引継ぎ蛇笏や喜舟らを指導した。大正4年「渋柿」創刊。のち野村喜舟に「渋柿」を譲る。芸術院会員。*京都帝大法科出身

 句集:『東洋城全句集・全3巻』 著作:『黛』『俳諧道』ほか

       黛を濃うせよ草は芳しき

       渋柿の如きものにて候へど

       海の中に桜さいたる日本かな

       冬木より人の淋しく住む戸かな

 

松村蒼石 (まつむら そうせき)

 明治20年(1887)〜昭和37年(1962)94歳。滋賀県生れ。 東京在住。

 飯田蛇笏、龍太に師事。大正15年蛇笏に師事。以後「雲母」ひとすじの俳句生涯。山蘆賞・第7回蛇笏賞受賞。

 句集:『寒鶯抄』『露』『春霰』『雪』『雁』

     たわたわと薄氷に乗る鴨の脚

     ひそひそと固めて蝌蚪の夕ごころ

     もの忘れせし手つめたく春の月

     声のなき雁人をおほひ去る

     白昼の闇したがへて葛咲けり

 

松本 旭 (まつもと あさひ)

 大正7年(1918)〜平成27年(2015)97歳。埼玉県生れ。 「橘」名誉主宰

 楸邨、源義に師事。「寒雷」を経て、「河」に同人参加。昭和53年「橘」創刊主宰。平成27年主宰を退く。埼玉大学名誉教授。河賞・第1回俳人協会評論賞受賞。※東京文理科大学(現筑波大)出身。

句集:『猿田彦』『蘭陵王』『天鼓』『長江』『卑弥乎』『酔胡従』『凱旋門』『浮舟』楼蘭』『天恵』  著作:『村上鬼城研究』『風雅の魔心』ほか

     玉虫の全身青くなるまでとぶ

     生々流転この世は桜月夜かな

     胡桃落つる音を聴かせよここ古湯(ことう)

     たかが泥鰌ぞ手掴みにして見せう

     現そ身のしずけささても菊の前

     さても天恵冬紺青の弥陀の前

 

松本恭子 (まつもと きょうこ)

 昭和33年(1958) 長崎県生れ。京都在住。「吟遊」

 伊丹三樹彦に師事。大学生時代に三樹彦を知る。昭和56年「青玄」入会。無鑑査同人。「吟遊」同人。青玄新人賞・ 青玄賞受賞。

 句集:『檸檬の街で』『夜の鹿』『花陰』 著作:『二つのレモン』『ちぎれそうなりんごの皮の夜祭り』

   恋ふたつ レモンはうまく切れません

   セロリバキバキ喰って 体内に露いっぱい

   檸檬シュパリ カリ わたしの敵はわたし

   鬱に入る花弁をあかく重ねしも

   抽斗のべろりと咲けり大蓮華

 

松本澄江 (まつもと すみえ)

 大正10年(1921)〜平成18年(2006)84歳。 東京都生れ。 「風の道」主宰

 「ホトトギス」「玉藻」に投句。戦後「みちのく」「若葉」に拠る。

 句集:『紙の桜』『冬香水』『鏡』『天つ日』『西施桜』『花押』『櫻紅葉』ほか

     妻の日の短き記憶鴬餅

     終ひ湯の身に遠き柚子近き柚子

     涅槃図の前をこの世の猫通る

 

松本たかし (まつもと たかし)

 明治39年(1906)〜昭和31年(1956)50歳。 東京生れ。

 虚子に師事。24歳で「ホトトギス」の巻頭。「笛」を創刊,後進の指導に当たった。親友の茅舎は、たかしを「生来の芸術上の貴公子」と評した。

 句集:『松本たかし句集』『鷹』『野守』『石魂』『火明』

     仕(つかまつ)る手に笛もなし古雛

     羅をゆるやかに着て崩れざる

     花散るや鼓あつかふ膝の上

     チチポポと鼓打たうよ花月夜

     白焔の縁の縁や冬日燃ゆ

 

的野 雄 (まとの ゆう)

 大正15年(1926) 東京都生れ。「野の会」

 「天狼」「青玄」を経て昭和44年楠本憲吉の「野の会」に参加。平成元年「野の会」継承、のち鈴木明に移譲。

 句集:『木石』『風來』『流連』『斑猫』『円宙』

      元日の暮るる空ろを誰も言わず

      一月二日写真館出て逐電す


      なつかしく炎天はあり<晩年に/P>

      残像なお増殖止まず開戦日

 

眞鍋呉夫 (まなべ くれお)

 大正9年(1920)〜平成24年(2012)92歳。 福岡県生ま。東京都在住。 *俳号:天魚 小説家・連句作家  「紫薇」

 長く作家壇一雄に兄事。昭和14年阿川弘之、島尾敏雄らと同人誌「こころ」創刊。俳句は父(俳号天門)に学ぶ。永い中断の後連句とともに句作再開.昭和49年東京義仲寺連句会に参加。平成14年「紫薇」入会。第44回読売文学賞・第30回藤村記念歴程賞・第8回鬣TATEGAMI俳句賞・第44回蛇笏賞受賞。※旧制福岡商業出身。文化学院に学ぶ。

 句集:『花火』『雪女』『真鍋呉夫句集』『月魄』  著作『二十歳の周囲』『評伝火宅の人 壇一雄』『露のきらめき 昭和期の文人たち』『天馬漂白』ほか

      雪女溶けて光の蜜となり

      花冷のちがふ乳房に逢ひにゆく

      初夢は死ぬなと泣きしところまで

      死者あまた卯波より現(あ)れ上陸す

      骨箱に詰めこまれゐし怒涛かな

      襤褸市の隅で月光売ってをり

      鉄帽に軍靴をはけりどの骨も

      去年今年海底の兵光だす

 

マブソン青眼 (まぶそん せいがん)

 1968年南フランス生まれ。長野県在住。  「海原」

 金子兜太に師事。「海程」同人。学術博士(早大)比較文学・一茶研究者。第3回雪梁舎俳句大賞受賞。

 句集:『空青すぎて』『天女節』『アラビア夜話』『渡り鳥日記』『妖精女王マブの洞察』著作:『一茶とワイン』ほか

     葉巻の灰おとす暮春のセーヌかな

     みどりごの実梅拾ふセシウムも

     寒月下しんと紫紺のしなのかな

     立小便も虹となりけりマルキーズ

     爪黒む死者や白旗握ったまま

 

黛 執 (まゆずみ しゅう)

 昭和5年(1930)〜令和2年(2020)90歳。 神奈川県生れ。 「春野」名誉主宰。

 安住敦に師事.昭和41年「春燈」入会。平成5年「春野」創刊主宰.俳人協会顧問。昭和49年春燈賞・第43回俳人協会賞受賞。※明治大専門部出身。

 句集:『春野』『村道』『朴ひらくころ』『野面積』『畦の木』『煤柱』『春の村』『春がきて』『黛執全句集』

     大杉の真下を通る帰省かな

     ぐんぐんと山が濃くなる帰省かな

     五月くる小さな村の大きな木

     盆僧のひらひら帰る夕かすみ

     啓蟄の土をほろほろ野面積

     春がきて日暮が好きになりにけり

 

黛 まどか (まゆずみ まどか)

 昭和37年(1962) 神奈川県生れ。 

 吉田鴻司に師事。「河」入会。のち女性俳誌「月刊ヘップバーン」を刊行。父は俳人黛執。平成18年3月号で終刊。河新人賞・文学の森第2回山本健吉賞受賞。

 句集:『B面の夏』『夏の恋』『花ごろも』『くちづけ』『京都の恋』『忘れ貝』『てっぺんの星』   

      サーフボード立て掛けてある襖かな

      かまいたち鉄棒に巻く落とし物

      風の盆ひとつの月に踊りけり

 

丸山海道 (まるやま かいどう)

 大正13年(1924)〜平成11年(1999)75歳。 京都生れ。 「京鹿子」

 鈴鹿野風呂の次男。昭和23年より「京鹿子」の編集に携わる。昭和46年野風呂の死去により主宰を継承する。10歳の頃ホトトギスに投句,入選をしている。※京大文学部出身。

 句集:『新雪』『獣神』『青嶺』『露千乃』『館雁』『風媒花』『遊行』

        花洛かなかりんは落ちて石の傷

        添水闇小石が石に育つとき

        雪まろげ母こそ消えぬ消えにけり

     

丸山佳子 (まるやま よしこ)

 明治41年(1908)〜平成26年(2014)106歳。 奈良県生れ。京都府在住。 「京鹿子」名誉顧問

 句集:『緋衣』『神よりの賜暇』『虎の巻』『和名』『糸切歯』『白壽』

     吐き出せる電光ニュースにくさめせり

     折紙のやうに抱かれ春著の嬰

     あの日から日傘をまはす五十年

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