俳人名鑑
齋藤 朝比古 (さいとう あさひこ)
昭和40年(1965) 東京都生れ。 「炎環」「豆の木」
石 寒太に師事。平成5年「炎環」入会。同人。「豆の木」副代表。第3回炎環新人賞・第10回豆の木賞・第21回俳句研究賞受賞。
句集:『累日』
熱きものもつやうな指祭笛
やはらかきところは濡れてかたつむり
猫の背にほこと骨ある良夜かな
斎藤梅子 (さいとう うめこ)
昭和4年(1929)〜平成25年(2013)84歳。 徳島県生れ。 「青海波」前主宰
「航標」に入会。のち,桂 信子に師事。「草苑」同人。平成4年「青海波」創刊主宰。平成23年主宰を退く。第10回現代俳句女流賞受賞。※旧制神戸女子薬専に学ぶ。
句集:『藍甕』『青海波』『涛聲』『八葉』『大初は海』『藍の構図』『眉山』
燈明に離れて坐る朧かな
ししむらの菩薩とひとつ凍にゐる
密密とすごしたる日々蓮は実に
またの世へ土用蜆を掘つてゐる
斎藤夏風 (さいとう かふう)
昭和6年(1931)〜平成29年(2017)86歳。 東京都生れ。 「屋根」創刊主宰
山口青邨に師事。昭和29年「夏草」入会。同40年同人、編集担当。昭和61年「屋根」創刊。平成29年3月号で終刊。俳人協会顧問。 昭和37年夏草新人賞・ 昭和61年夏草賞・第50回俳人協会賞受賞。※早稲田大学第ニ法学部に学ぶ。
句集:『埋立地』『櫻榾』『次郎柿』『燠の海』『禾』『辻俳諧』『辻俳諧以後』 著作:『河』『三艸春秋』『『俳句道場』共著『名句に学ぶ俳句の骨法』
虫売の瀬田の唐橋渡りけり
新巻と青竹と貨車続きけり
武蔵野は雨のち霰のち落花
朶の毛の生えてそのまま冬の荼毘
蒲団干すそこに兎を追ひし山
曲るだけでへぼと呼ばれて茄子胡瓜
寒鯉の背鰭の水はぬめりけり
齋藤 玄 (さいとう げん)*旧名:三樹雄
大正3年(」1914)〜昭和55年(1980) 66歳。北海道生れ。「壺」
西東三鬼、石田波郷に師事。「京大俳句」を経て「鶴」同人。昭和15年「壺」創刊主宰となる。「鶴」同人辞退。第14回蛇笏賞受賞。*早大商学部出身
句集:『舎木』『飛雪』『玄』『狩眼』『雁道』『無畔』『斎藤玄全句集』
玄冬の鷹鉄片のごときかな
明日死ぬ妻が明日の炎天嘆くなり
すさまじき垂直にして鶴佇てり
たましひの繭となるまで吹雪けり
雪に舞ふ遊びわれには睡る遊び
西東三鬼 (さいとう さんき)
明治33年(1900)〜昭和37年(1962)61歳。 岡山県生れ。神奈川県在住。 「天狼」・「断崖」主宰
「旗艦」「京大俳句」を経て「天狼」創刊,初代編集長。「断崖」創刊主宰。現代俳句協会と俳人協会の設立に尽力。「知性と感覚の調和」は晩年まで変わらぬ三鬼の作句信念であった。第2回俳人協会賞受賞。*旧制日本歯科医専(現日本歯科大学)出身
句集:『旗』『夜の桃』『今日』『変身』『西東三鬼全句』ほか
水枕ガバリと寒い海がある
春ゆふべあまたのびつこ跳ねゆけり
算術の少年しのび泣けり夏
緑蔭に三人の老婆わらへりき
中年や遠くみのれる夜の桃
老年や月下の森に面の舞
赤き火事哄笑せしが今日黒し
炎天の犬捕り低く唄い出す
青高原わが変身の裸馬逃げよ
秋の暮大魚の骨を海が引く
ヒロシマや卵食ふときく口開く
齋藤愼爾 (さいとう しんじ)
昭和14年(1939)〜令和5年(2023)83歳。 京城生れ。山形育ち。東京都在住。
高校時代から「氷海」投句。秋沢猛の指導を受け,秋元不死男に師事。「氷海」同人.23年間の中断ののち,寺山修司と「雷帝」創刊のため句作開始。氷海賞・平成22年芸術選奨文部科学大臣賞・第23回現代俳句大賞受賞。深夜叢書社代表。※山形大文理学部国文科に学ぶ。
句集:『夏への扉』『秋庭歌』『冬の智慧』『冬の羇旅』『齋藤愼爾全句集』『永遠と一日』『陸沈』 著作:『ニ十世紀の名句手帖』『寂聴伝 良夜玲瓏』『ひばり伝 蒼穹流謫』『続 寂聴伝 拈華微笑』ほか。
籾降らし降らし晩年泣かぬ父
少年の髪白みゆく櫻狩
百日紅死はいちまひの畳かな
裏山の日暮が見えて雛祭
梟や闇のはじめは白に似て
かりそめに空蝉を置く山河かな
塵として男澄みたる大旦
蝉の穴もうこの世へは誰も来ぬ
斎藤美規 (さいとう みき)
大正12年(1923)〜平成24年(2012)89歳。 新潟県生れ。 「寒雷」・「麓」主宰。
加藤楸邨に師事。「寒雷」「杉」同人・昭和56年「麓」創刊主宰。現代俳句協会顧問。第7回寒雷清山賞・第28回現代俳句協会賞・第6回現代俳句大賞受賞。※旧制高岡高商に学ぶ。
句集:『花菱紋』『鳥越』旧制地の人』『桜かくし』『路上集』『海道』『白壽』『百年』『春の舞』『落し文』
冬すみれ本流は押す力充ち
雛の日の鳥越といふ一軒家
可惜夜(あらたよ)の桜かくしとなりにけり
枯るる山噛めば噛むほど飯の味
百年後の見知らぬ男わが田打つ
酒井弘司 (さかい こうじ)
昭和13年(1938) 長野県生れ。神奈川県在住。 「朱夏」主宰
金子兜太に師事。「海程」同人。平成6年「朱夏」創刊主宰。第5回海程賞受賞。
句集:『蝶の森』『逃げるボールを追って』『青信濃』『朱夏集』『酒井弘司句集』『地霊』『谷風』『谷戸抄』『地気』 著作:『現代俳人論』『金子兜太の100句を読む』
青年期冬のにんじん胸にだき
木に吊され六月の死者となるうさぎ
炎天に伐られて桜よこたわる
手をあげて早春の空濡らしゆく
夜長にて擂粉木おうと声あげる
榮 猿丸 (さかえ さるまる)
昭和43年(1979) 東京都生れ。「澤」
小澤實に師事。平成12年「澤」入会。編集長を務めた。第5回田中裕明賞受賞。
句集:『点滅』
紐解かれ枯野の犬になりたくなし
ビニル傘ビニル失せたり春の浜
箱振ればシリアル出づる寒さかな
炎天のビールケースにバット挿す
阪口涯子(さかぐち がいし)
明治34年(1901)〜平成元年(1989)87歳。長崎県生れ。 「海程」
九大俳句会で吉岡禅寺洞の指導を受ける。「俳句基地」「形象」「鋭角」主宰。「海程」同人参加。※九大医学部出身。
句集:『北風列車』『阪口涯子句集』『雲づくり』『航海日誌』
草原に人獣すなおに爆撃され
凍空に太陽は三個死は一個
枯山にもっとも他者の一旗あり
からすはキリスト青の彼方に煙る
坂戸淳夫 (さかど あつお)
大正13年(1924)〜平成22年(2010)85歳。 長野県生れ。愛知県在住。 「騎の会」「夢幻航海」
栗生澄夫に師事。「石楠」「科野」「南風」「俳句評論」同人などを経て「騎」同人。誇り高き異端のひとり。小川双々子に親灸、敬愛し親交を続けた。昭和37年度中部日本俳句作家会賞・第7回鬣TATEGAMI賞受賞。
句集:『冬樹』『朿刑』『苦艾』『艸衣集』『異界』『影異聞』『異形神』『彼方へ』
われに冬帽なし荘厳の落日す
芒ちりぬ山脈という向うかな
この川や捨蚕も人も流したる
少年老いたり妖怪をなほ友として
幼年や橋のかなたは異界にて
葦原に来てきさらぎの風のきらきら
少年よ国家より一人の友をこそ
坂本宮尾 (さかもと みやお)
昭和20年(1945)大連生。東京都在住。 「パピルス」
山口邨に師事。「夏草」同人。10年間の句作中断後「夏草」に再入会。「天為」「藍生」創刊とともに参加。現在「パピルス」創刊主宰。夏草新人賞・第1回藍生賞・第16回俳人協会評論賞・第2回鬣TATEGAMI俳句賞・第6回桂信子賞受賞。東洋大学名誉教授(現代英米演劇)本名:桑原文子。
句集『天動説』『木馬の螺子』『別の朝』 著作;『此の世は舞台』『杉田久女』『真実の久女』『竹下しづの女 理性と母性の俳人1887−1851』ほか
はるかなる天動説や畑を打つ
一粒の葡萄のなかに地中海
地球儀を廻す冬濤起すべく
花仰ぐまた別の町別の朝
勝手口ひらけば海市立つ港く
佐久間慧子 (さくま けいこ)
昭和12年(19379大阪府生まれ。 「葡萄棚」主宰
阿波野青畝に師事。昭和38年「かつらぎ」入会。平成10年「葡萄棚」創刊、主宰。第10回俳人協会新人賞・第6回文学の森大賞受賞。
句集:『聖母月』『文字盤』『無伴奏』『夜の歌』 著作:『青畝俳句散歩』
無伴奏こそよけれ囀れる
紅蜀葵サロメの舞をおもいけり
藪巻やささらほさらと風鳴いて
火屋割れてわりなきランプ冬来る
鴉の子しょうことなしに啼いてをり
桜井博道 (さくらい はくどう)
昭和6年(1931)〜平成3年(1991)60歳。 東京都生れ。 「寒雷」「杉」
青池秀二の手ほどきを受ける。加藤楸邨に師事。「寒雷」同人。森澄雄の「杉」にも参加。第12回清山賞・第17回現代俳句協会賞受賞。*早稲田大学商学部出身
句集:『海上』『文鎮』『椅子』
海上に朝の道あり桑解かれ
雪国やしづくのごとき夜と対す
しなやかに夏帽子ゆく杉の谿
馬がゐてコップの中も夕焼けぬ
フルート曲杉一本づつ雪ふらす
佐藤文香 (さとう あやか)
昭和60年(1985) 兵庫県生れ。東京都在住。 「鏡」「里」
池田澄子に師事。第5回俳句甲子園個人最優秀賞・第2回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞・平成21年第10回雪梁舎宗左近俳句大賞受賞。
句集:『海藻標本』『君に目があり見開かれ』『菊は雪』
少女みな紺の水着を絞りけり
手紙即愛の時代の燕かな
歩く鳥世界にはよろこびがある
知らない町の吹雪のなかは知つている
青に触れ紫に触れ日記買ふ
佐藤郁良 (さとう いくら)
昭和43年(1968) 東京都生れ。 「銀化」「群青」
中原道夫に師事。平成15年「銀化」入会。平成18年同人。編集に携わる。平成25年「群青」創刊。櫂未知子と共同代表に就く。銀化新人賞・第31回俳人協会新人賞受賞。
句集:『海図』『星の呼吸』『しなてるや』
部屋いつぱい広げし海図小鳥来る
大根にしみ入るやうに諭しけり
春を待つ前売券が二枚あり
佐藤文子 (さとう ふみこ)
昭和20年(1945)三重県生れ。北九州に育つ。長野県在住。 「信濃俳句通信」主宰・「吟遊」
穴井太に師事。昭和41年「天籟通信」入会。同人。昭和49年長野県松本市に移住。「信濃俳句通信」創刊主宰。天籟通信賞・平成18年松本市芸術文化功労賞・松本芸術文化協会文学賞受賞。
句集:『邂逅』『火の一語』『火炎樹』 著作:『明日は日曜
ー穴井太聞き書きノート』
昨日までの蝶は男に戻りけり
五月闇ほどけぬ紐をもてあそぶ
秘の漏れて杏の花の揺れに揺れ
シャガールの瞳を盗み鳥交る
薄目して抱擁解かる天の川
佐藤鬼房 (さとう おにふさ)
大正8年(1919)〜平成14年(2002)83歳。岩手県生れ。宮城県在住。 「小熊座」主宰
三鬼に師事。「雷光」「夜盗派」を経て,「風」「天狼」「海程」同人。「小熊座」創刊主宰。第3回現代俳句協会賞・河北文化賞・第5回詩歌文学館賞・第27回蛇笏賞受賞
句集:『名もなき日夜』『夜の崖』『地楡』『海溝』『鳥食』『朝の日』『潮海』『何處へ』『半跏座』『瀬頭』『霜の聲』『枯峠』『愛痛きまで』 著作:『沖つ石』
切株があり愚直の斧があり
青年へ愛なき冬木日曇る
ひばり野に父なる額うちわられ
縄とびの寒暮いたみし馬車通る
馬の目に雪ふり湾をひたぬらす
陰に生(な)る麦尊けれ青山河
月光とあり死ぬならばシベリヤで
赤光の星になりたい穀潰
生きて食ふ一粒の飯美しき
蝦蟇(がま)よわれ混沌として存へん
やませ来るいたちのやうにしなやかに
またの世は旅の花火師命懸
佐藤清美 (さとう きよみ)
昭和43年(1968) 群馬県生れ。 「鬣」「吟遊」
結社に属せず雑誌に投句。「吟遊」創刊に参加、のち同人。「鬣」創刊に編集同人参加。
句集:『空の海』『月磨きの少年』
何を見たって鳥の瞳は毀れない
降るは光八月六日と九日と
梯子には月を磨きに行く少年
佐藤三保子 (さとう みほこ)
大正10年(1920)〜 東京生まれ。 「かまつか」「俳句評論」
金子麒麟草、高柳重信に師事。「かまつか」の主要作家として長い俳暦をもつ。「俳句評論」に参加。俳句研究五十句競作に挑戦、入賞を続けた。昭和50年度かまつか賞受賞。
句集:『綾垣』『青墨』
遺書以後もある風呂桶の楕円かな
草いきれして大祖母の野の深井
山火事のごとくに描いては捨てる絵よ
葱抜いてこの世の笑顔おそろしき
厠まで歩いて終わるながき秋
佐怒賀正美 (さぬか まさみ)
昭和31年(1956) 茨城県生れ。東京都在住。 「秋」主宰・「天為」
石原八束に師事。昭和53年「秋」入会。「天為」「恒信風」同人。平成17年「秋」副主宰。翌年主宰を継承。第1回ASAHIネット俳句大賞・第74回現代俳句協会賞受賞。
句集:『意中の湖』『光塵』『青こだま』『椨の木』『悪食の獏』『天樹』『無二』
数え日や剃られてゐたる首根つ子
毛布干すミッキーマウス逆さ吊り
ロボットは無季と蔑(なみ)されとぐろ巻く
大笑面ならぼうたんのうしろなり
世界中トースト飛び出す青葉風
滝桜この世は江戸の彼岸かな
佐野まもる (さの まもる)
明治34年(1901)〜昭和59年(1984)83歳。 徳島県生れ。「馬酔木」・「海郷」主宰
秋桜子に師事。「馬酔木」同人.「海郷」を創刊.晩年は遍路詠に独自の句境を拓く。
句集:『佐野まもる句集』『海郷』『無慙絵』『恩掌』『天明抄』ほか
南国の雷雨をもつて城かくす
探海の一壺酒われら明治つ子
濁流を黍の暮色に押しすすむ
網敷きて沖に沖ある鰤起し
路の瞳乾きてけふの宿に着く
佐野美智(さの みち)
大正9年(1920)〜平成25年(2013)93歳。 神奈川県生。 「濱」「方円」
大野林火に師事。「濱」「方円」同人。第9回現代俳句女流賞受賞。
句集:『起居』『阿久和』『棹歌』『加良能』
深爪のうづく卯の花月夜かな
亀鳴くやどこにも合わぬ鍵ひとつ
灯のなきがわが家と思ふ葛月夜
鮫島康子 (さめじま やすこ)
大正7年(1918) 福岡県生れ。 「海程」「穹」
昭和45年前原東作の「形象」に参加。第20回九州俳句賞・第22回福岡市文学賞受賞。
句集:『榛の木』『梅』
虹消えゆく仔猫一匹いりませんか
涯子逝く白魚ほどの腸(わた)をも
戦おわる戦おわると死にゆけり
沢木欣一 (さわき きんいち)
大正8年(1919)〜平成13年(2002)82歳。富山県生れ。東京都在住。 「風」主宰。
楸邨に師事。「馬酔木」、「寒雷」に投句。新進気鋭の俳人を結束し「風」を創刊。妻は俳人の細身綾子。詩歌文学館賞・俳人協会評論賞・蛇笏賞受賞。俳人協会会長を努めた。東京芸術大学名誉教授。※旧制四高・東京帝大国文学科出身
句集:『雲白』『塩田』『地声』『沖縄吟遊集』『赤富士』『二上挽歌』『遍歴』『往還』『眼前』『白鳥』『交響』『綾子の手』
水漬く稲陰(ほと)まで浸し農婦刈る
塩田に百日筋目つけ通し
塩田夫日焼け極まり青ざめぬ
子が知れる雪野の果の屠殺場
赤富士の胸乳ゆたかに麦の秋
八雲わけ大白鳥の行方かな
ひきがへるバベルバベルと鳴き合へり
澤 好摩 (さわ こうま)
昭和19年(1944)〜令和5年(2023)79歳。 東京都生れ。 「円錐」
高柳重信に師事。元「俳句評論」同人。「日時計」「天敵」「草苑」などを経て昭和45年「俳句評論」同人参加。平成3年「円錐」創刊、編集にあたる。俳句研究第1回五十句競作の佳作1位、以後見事な実績を残す。第1回の佳作受賞者の作品は各参加者の代表句、絶唱とされる作品が並び壮観の一語につきる。 俳句評論(評論の部)賞・第64回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
句集:『最後の走者』『印象』『風影』『光源』『返照』
三日月を三日見ざれば馬賊かな
灰神楽腋毛は鳥の名残りにて
ものかげの永き授乳や日本海
空高く殺しわすれし春の鳥
綿つめし金管楽器や秋のくれ
天井が高くて酔へぬふたりかな
うたたねの畳の縁を来る夜汽車
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