俳人名鑑
須川洋子 (すがわ ようこ)
昭和13年(1938)〜平成23年(2011)73歳。 東京都生れ。 「季刊芙蓉」主宰・「寒雷」
加藤楸邨、田川飛旅子に師事。昭和47年「寒雷」、49年「陸」同人参加。「季刊芙蓉」創刊」主宰。※立教大学文学部出身
句集:『栞ひも』『小鳥来る』『水菓子』
生涯の配役は次女葱の花
日傘まだ燃えてゐるなり畳むとき
菅原鬨也 (すがわら ときや)
昭和15年(1940)〜平成28年(2016)75歳。 宮城県生れ。 「滝」主宰。
藤田湘子、岡井省二に師事。昭和29年「鷹」入会。「鷹」「槐」同人を経て平成4年「滝」創刊主宰。角川俳句賞受賞。
句集:『祭前』『遠泳』『飛沫』『琥珀』 著作;『宮沢賢治ーその人と作品』
めんどりに真水が見ゆる祭前
はねと跳ねはねて落せし鈴の音
一僧の美声ながるる曝書かな
余震あり蝶ひらひらと夜空より
杉田久女 (すぎた ひさじょ)
明治23年(1890)〜昭和21年(1946)55歳。 鹿児島県生れ。福岡県在住。
虚子に師事。昭和7年「花衣」を創刊主宰するが5号で終刊。後,草城,禅寺洞とともに突然ホトトギス同人を除籍される。近代女性俳句の先駆者。不朽の作品を遺して逝った久女にとって虚子もホトトギスも今更かかわりないことと思える。※旧制東京女子高等師範学校附属高女(現お茶の水女子大附属高校)出身
句集:『杉田久女句集』
花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ
紫陽花に秋冷いたる信濃かな
朝顔や濁りそめたる市の空
足袋つぐやノラともならず教師妻
谺して山ほととぎすほしいまま
風に落つ楊貴妃桜房のまま
鶴舞ふや日は金色の雲を得て
杉本雷造 (すぎもと らいぞう)
大正15年(1926)〜平成15年(2003) 大阪府生れ。 「頂点」代表
西東三鬼に師事。鈴木六林男に兄事。「青天」「雷光」「断崖」を経て「頂点」代表同人。第18回現代俳句協会賞受賞。*近畿大学出身
句集:『軍艦と林檎』『火祭』『昨日の翳』
雪の河ぐんぐん流れ愉快なり
しんかんと酸素を売れり星祭
葡萄狩る指のさびしさ戦闘機
十字架にわが骨格を想う冬
しぐれたい時にしぐれる老人力
杉山岳陽 (すぎやま がくよう)
大正3年(1914)〜平成10年(1998)81歳。 静岡県生れ。
「馬酔木」に入会。石田波郷に師事。「鶴」創刊に同人として参加。のち、「馬酔木」同人に復帰。62年病気の為同人辞退。
句集:『晩婚』『愛憎』『啓蟄』ほか
嘘をつき了せざる日の油蝉
妻を得て秋風をきく泪かな
雨に似て落葉松散るや梓川
杉山久子 (すぎやま ひさこ)
昭和41年(1966) 山口県生れ。 「藍生」「いつき組」
平成元年より句作。「星」を経て「藍生」「いつき組」所属。第3回藍生新人賞・第2回芝不器男俳句新人賞・第1回姨捨俳句大賞受賞。
句集:『春の柩』『猫の子も借りたい』『鳥と歩く』『泉』
あおぞらのどこにもふれず鳥帰る
糸とんぼ糸のからだをかさねをり
須佐薫子 (すさ かおるこ)
昭和23年(1948) 東京都生れ。 「帆船」主宰
藤田湘子に師事。「鷹」同人。平成12年母(小島花枝)の死で母の主宰する「帆船」を継承する。
句集:『復活』『聖徒』
寒鯛の総身をもて刃をはじく
春北風楽聖の絵のひとならび
月山の雲の夜明や厩出し
鈴鹿野風呂 (すずか のぶろ)
明治20年(1887)〜昭和46年(1971)83歳。京都生れ。 「京鹿子」主宰
虚子に師事。「ホトトギス」同人。「京大三高俳句会」を母体として大正9年、日野草城らと「京鹿子」創刊。昭和43年京都市文化功労者受賞。※旧制七高・京都帝大文学部国文科出身
句集:『野風呂句集』『嵯峨野集』『浜木綿』『海豹島』 著作:『野風呂俳諧日誌』
ゆるやかに間なくひまなく壬生の鉦
雲を吐く三十六峰夕立晴
竹伐や錦につつむ山刀
さにづらふ紅葉の雨の詩仙堂
嵯峨の虫いにしへ人になりて聞く
手に満ちてよろこびあひし蕨狩
鈴木 明 (すずき あきら)
昭和10年(1935)〜令和3年(2021)86歳。 東京都生れ。 「野の会」主宰
伊丹三樹彦、楠本憲吉に師事。昭和35年「青玄」入会。昭和44年楠本憲吉の「野の会」創刊に参加。平成15年主宰を継承。 青玄新人賞・野の会賞・第55回現代俳句協会賞受賞。
句集:『独神』『写楽』『白・ABIKU』『0一一年一月』『甕Amphore』『鈴木明全句集 今日』
脳、蟇に似ておかしいよさみしいよ
夏草やキャラメル状に溶けた兵
卑弥呼失踪きりきり朝風麻の葉
しぐれて二人月面にいるようじゃないか
鈴木榮子 (すずき えいこ)
昭和4年(1929) 東京都生れ。 「春燈」
安住敦に師事。昭和42年「春燈」入会。平成15年成瀬櫻桃子より「春燈」継承、主宰を務めた。第18回角川俳句賞・第2回俳人協会新人賞受賞。
句集:『鳥獣戯画』『白鳥』『薔薇枕』『繭玉』ほか
毛皮着てけものの慈悲を貰ひけり
メロン掬ふに吃水線をやや冒す
花の下片手あづけて片手冷ゆ
鈴木牛後(すずき ぎゅうご)
昭和36年(1961) 北海道生れ。 「藍生」「雪華」「itak」「いつき組」
黒田杏子に師事。平成21年インターネット俳壇(夏井いつき選)で俳句を始める。平成23年黒田杏子の「藍生」入会。平成28年「雪華」入会。藍生新人賞・藍生賞・第64回角川俳句賞受賞。
句集:『根雪と記す』『暖色』『にれかめる』
終戦日牛の破水のざばんと来
我が足を蹄と思ふ草いきれ
仔牛の寒衣脱がせ裸と思ふ春
牛死せり片眼は蒲公英に触れて
鈴木しづ子 (すずき しづこ)
大正8年(1919)〜昭和27年に消息を絶つ。 東京生れ。
松村巨湫に師事。昭和18年「樹海」入会、のち同人。戦後の私生活を多く詠む。※東京・淑徳高等女学校出身
句集:『春雷』『指環』
寒の夜を壷くだけ散る散らしけり
すでに恋ふたつありたる雪崩かな
娼婦またよきか熟れたる柿食うぶ
夏みかん酸つぱしいまさら純潔など
コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ
鈴木貞雄(すずき さだお)
昭和17年 (1942) 東京都生れ。「若葉」主宰
清崎敏郎に師事。慶應義塾大学俳句研究会に入り清崎敏郎の指導を受けた。平成11年「若葉」3代目主宰を継承。俳人協会新人賞受賞。
句集;『月明の樫』『麗月』『遠野』『過ぎ航けり』『墨水』『うたの祷り』 著作:『わかりやすい俳句の作り方』『日本タケ科植物図鑑』
赤富士のやがて人語を許しけり
シャム猫の眼に春の海二タかけら
すぎ航(ゆ)けり桐咲く町の名はしらず
降る雪やしづかに樹液昇りゆく
月光の流るるしだれざくらかな
鈴木節子 (すずき せつこ)
昭和7年(1932)〜令和4年(2022)90歳。 東京都生れ。 「門」名誉主宰
石田波郷,能村登四郎に師事。昭和27年より句作。「季節」「鶴」、「沖」同人を経て、鈴木鷹夫の「門」創刊に同人参加。平成25年主宰継承。令和2年主宰を実妹鳥居真理子が継承。夫は俳人の鈴木鷹夫。沖賞・門賞受賞。
句集:『夏のゆくへ』『冬の坂』『春の刻』
薪束の胴締め寒のにはかなり
海鼠噛みつつ覚えたる男の名
直立の天皇一家松に雪
さびしくないか桜の夜の乳房
われは妻桃のごとくにあらねども
鈴木鷹夫 (すずき たかお)
昭和3年(1928)〜平成25年(2013)84歳。 東京都生れ。旧名:容風 「門」主宰
石田波郷、能村登四郎に師事。昭和29年「鶴」に入会,同人。昭和46年「沖」に入会同人となる。昭和62年「門」創刊主宰。第44回俳人協会賞受賞。
句集:『渚通り』『風の祭』『春の門』『鈴木鷹夫句集』『千年』『カチカチ山』 著作:『風騒の人 若き日の宝井其角』
帯巻くとからだ廻しぬ祭笛
落鮎の落ちゆく先に都あり
夜汽車にも春は曙顔洗ふ
男来て鍵開けてゐる雛の店
踏むまいぞこれは朝寝の妻の足
鈴木太郎 (すずき たろう)
昭和17年(1942) 福島県生れ。 「雲取」
森澄雄に師事。昭和45年「杉」創刊から参加。平成9年「雲取」主宰。昭和45年杉賞受賞。
句集:『山朴』『雲取』『冬祭』『花朝』
臍の緒はむかしのいのち鏡餅
しぐれ忌の己が瑕瑾をあたたむる
赤ん坊のそのてのひらの夏野かな
鈴木真砂女 (すずき まさじょ)
明治39年(1906)〜平成15年(2003)97歳。 千葉県生れ。東京都在住。 「春燈」
はじめ大場白水郎に師事。戦後、久保田万太郎,安住敦に師事。「春燈」同人。俳人協会顧問。第16回俳人協会賞・第46回読売文学賞・第33回蛇笏賞受賞。
句集:『生簀籠』『卯浪』『夏帯』『夕蛍』『居待月』『都鳥』『紫木蓮』『鈴木真砂女全句集』 著作:『銀座・女将のグルメ歳時記』『お稲荷さんの路地』ほか
あるときは船より高き卯浪かな
羅や人悲します恋をして
蛍の死や三寸の籠の中
鍋物に火のまわり来し時雨かな
今生のいまが倖せ衣被
戒名は真砂女でよろし紫木蓮
鈴木六林男 (すずき むりお)>
大正8年(1919)〜平成16年(2004)85歳。 大阪府生れ。「花曜」主宰
三鬼に師事。「京大俳句」「琥珀」等に投句。戦後「雷光」「夜盗派」「風」等の同人。昭和30年『天狼』同人に推挙される。『頂点』創刊代表同人、『花曜』創刊代表。大阪俳人クラブ会長を歴任.現代俳句協会顧問。第6回現代俳句協会賞・大阪府文化芸術功労賞・第29回蛇笏賞・第2回現代俳句大賞受賞。※堺市立商業出身。 旧制山口高商(現・山口大経済学部)に学ぶ。
句集:『荒天』『谷間の旗』『第三突堤』『桜島』『国境』『王国『後座』』『悪霊』『雨の時代』『鈴木六林男全句集』『一九九九年九月』ほか
遺品あり岩波文庫『阿部一族』
かなしきかな性病院の煙突(けむりだし)
夜の芍薬男ばかりが衰えて
暗闇の眼を濡さず泳ぐなり
吹操銀座昼荒涼と重量過ぎ
月の出や死んだ者らと汽車を待つ
天上も淋しからんに燕子花
寒鯉や見られてしまい発狂す
永遠の孤りのごとし戦傷(きず)の痕
何をしていた蛇が卵を呑み込むとき
視つめられ二十世紀の腐りゆく
足そろえ手を組みおわるこの世かな
須藤 徹 (すどう とおる)
昭和21年(1946)〜平成25年(2013)66歳。 東京都生れ。神奈川県在住。 「豈」・「ぶるうまりん」代表
多田裕計の「れもん」入会。のち小川双々子に師事。「地表」編集同人となる。平成16年12月「ぶるうまりん」を創刊。第9回地表賞・第52回現代俳句協会賞受賞。※上智大学文学部哲学科出身。
句集:『宙の家』『幻奏録』『荒野抄』 著作:『俳句という劇場』
月明きマンホールより鉄の棒
幾千の傘降る夜の花野かな
遺書を裂くやうに揚窒殺めけり
アルミ缶捻りて海を遠くする
体内の水傾けてガラス切る
住宅顕信 (すみたく けんしん)
昭和36年(1961)〜昭和62年(1987)25歳。岡山県生れ。
「層雲」に投句。「海市」編集同人。急性骨髄性白血病で夭折。句友の尽力により遺句をまとめ出版。その境涯とあいまって反響を呼んだ。
句集:『未完成』
洗面器の中のゆがんだ顔すくいあげる
何もないポケットに手がある
|