俳人名鑑

土肥あき子 (どい あきこ)

 昭和38年(1963) 静岡県生れ。東京都在住。 「絵空」

 平成10年「鹿火屋」入会,同人。「ににん」編集長を務めたが退会。

 句集:『鯨が海を選んだ日』『夜のブランコ』

     水温む鯨が海を選んだ日

     麦秋や諸手をあげれば腋さびし

     夜のぶらんこ都がひとつ足の下

 

ドゥーグル・J・リンズィー

 1971年オーストラリア生まれ。神奈川県在住。 「海程」・「芙蓉」

 1991年「寒雷」投句。94年「海程」投句。「芙蓉」会員。第7回中新田俳句大賞受賞。海洋生物研究者。

 句集:『むつごろう』『出航』

      海蛇の長き一息梅雨に入る

      掬ふ掌のくらげや生命線ふかく

      「しんかい」や涅槃の浪に呑まれけり

 

藤後左右 (とうご さゆう)

 明治41年(1908)〜平成3年(1991)83歳。 鹿児島県生れ。「天街」

 鈴鹿野風呂、高浜虚子に師事。平畑静塔らと「京大俳句」を創刊。戦後「天街」創刊、代表同人。※旧制七高・京都帝大医学部出身

 句集:『熊襲ソング』『藤後左右句集』『ナミノコ貝』『新樹ならびなさい』『藤後左右全句集』

      夏の山と熔岩(らば)の色とはわかれけり

      噴火口近くて霧が霧雨が

      曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き

      舞ひの手や浪速をどりは前へ出る

      横町をふさいで来るよ外套(オーバ)着て

 

遠山陽子 (とうやま ようこ)*旧俳名 飯名陽子

 昭和7年(1932) 東京都生れ。「弦」主宰

 藤田湘子・三橋敏雄に師事。昭和32年より作句。「馬酔木」「鶴」を経て昭和39年「鷹」創刊に参加、同人。のち三橋敏雄に師事。敏雄の研究誌「弦」を発行。「面」「雷魚」同人。昭和54年度茨城文学賞・第11回六人の会賞・第33回現代俳句協会賞・第4回桂信子賞・第21回俳句四季大賞・第37回詩歌文学館賞受賞。

 句集:『弦楽』『黒鍵』『連音』『高きに登る』『弦』『遠山陽子俳句集成』 著作:『評伝 三橋敏雄』『三橋敏雄を読む』     

      父ほどの男に逢はず漆の実

      どのやうに兎抱いても母なきなり

      大年の海原叩け鯨の尾

      もう誰の墓でもよくて散る桜

      地の果は海のはじまりかもめ来よ

      敗戦日ジンベイザメを下から見て

      小鳥くる空気恐ろし水恐ろし

      春濤の輪舞曲(ろんど)かの世の友の数

 

時実新子 (ときざね しんこ)

 昭和4年(1979)〜平成19年(2007)76歳。岡山県生れ。兵庫県在住。 *川柳作家 「川柳大学」主宰

 1995年神戸新聞平和文化賞受賞。

 句集:『有夫恋』『愛走れ』ほか多数。

     赤に黄に風車舞う子が欲しや

     滝しぶき抱擁地獄無限地獄

     蝶その日ハガネのような死を果す

     かくれんぼして花かげの花になる

     夜のぶらんこ都がひとつ足の下

 

鴇田智哉 (ときた ともや)

 昭和44年(1969) 千葉県生れ。東京都在住。 「オルガン」

 今井杏太郎に師事。平成8年「魚座」入会。平成19年「雲」編集長。平成25年退会。平成13年第16回俳句研究賞・平成17年第29回俳人協会新人賞・第6回田中裕明賞受賞。

 句集:『こゑふたつ』『凧と円柱』『エレメント』

      逃水をちひさな人がとほりけり

      まんなかが窪む遅日のひとだかり

      上着きてゐても木の葉のあふれ出す

      顔のあるところを秋の蚊に喰はる

      人参を並べておけば分かるなり

      十薬にうつろな子供たちが来る

 

徳田千鶴子 (とくだ ちづこ)

 昭和24年(1949) 東京都生れ。 「馬酔木」主宰

 父、水原春郎に師事。平成4年「馬酔木」入会。10年同人。以後編集長、副主宰をへて平成24年主宰継承。

     天窓より光のシャワー苺盛る

     端居して懐にある夕明り

     折鶴に息吹きこみて夜の朧

 

徳弘 純 (とくひろ じゅん)

 昭和18年(1943)高知県生れ。大阪府在住。  「花象」

 鈴木六林男に師事。「花曜」同人。

 句集:『非望』『麥のほとり』『レギオン』『褶曲』

     嬰児には見えず涅槃の通り雨

     暗がりに外套ならぶ昭和かな

     生前の西日に満ちて家の中

     踏んで消す鼠花火と軍歌かな

 

土肥幸弘 (どひ よしひろ)

 昭和4年(1929) 兵庫県生れ。 「玄鳥」主宰

 中学時代から作句.西東三鬼の指導を受ける。中断後昭和42年「水鳥」入会.平成7年「玄鳥」創刊。

 句集:『梟夢』

     枝豆も箱の湿りて届きたる

     鷹の眼を八日九夜煮ていたり

     春障子灯が点いてすぐ消えにけり

 

殿村菟絲子 (とのむら としこ) 

 明治41年(1908)〜平成12年(2000)91歳。 東京生れ。 元「万蕾」主宰

 水原秋桜子に師事。昭和11年秋桜子「馬酔木」入会、編集長を務めていた石田波郷に傾倒し強い影響をうけた。同25年同人。同29年加藤知世子、柴田白葉女らと「女性俳句」を興す。昭和30年石田波郷の「鶴」に同人参加。昭和47年「万蕾」を創刊主宰す。平成7年終刊。第18回俳人協会賞受賞。*府立第一高女(現キ立白鴎高校)出身

 句集:『絵硝子』『路傍』『牡丹』『旅雁』『樹下』『晩緑』『菟絲』  著作:『季節の雑記』ほか

      オルガンに繪硝子の夏日灯と紛ふ

      獅子舞の骨まで崩し伏せりけり

      淡墨桜聴けば快楽の日もありき

      枯れてより現し世永しうめもどき

      鮎落ちて美しき世は終りけり

      枯るるなら一糸纏はぬ曼珠沙華

 

富澤赤黄男 (とみざわ かきお)

 明治35年(1902)〜昭和37年(1962)59歳。 愛媛県生れ。 「俳句評論」
 自ら松根東洋城を師と”指名”したと。昭和10年1月創刊の「旗艦」に同人参加。「琥珀」「太陽系」などを経て昭和27年「薔薇」を高柳重信と創刊。のち、重信の「俳句評論」に所属。新興俳句を代表する俳人の一人で、現代の俳句に新しいポエジーを注入した。※早大政経学部出身

 句集:『天の狼』『蛇の笛』『黙示』『定本・富澤赤黄男全句集』

     南国のこの早熟の青貝よ

     鶴渡る大地の阿呆 日の阿呆

     椿散るああなまぬるき昼の火事

     瞳に古典紺々とふる牡丹雪

     蝶墜ちて大音響の結氷期

     爛々と虎の眼に降る落葉

     石の上に 秋の鬼ゐて火を焚けり

     流木よ せめて南をむいて流れよ

     大露に 腹割ち切りしをとこかな

     切株は じいんじいんと ひびくなり 

     零(ゼロ)の中 爪立ちをして哭いてゐる

     草二本だけ生えてゐる 時間

 

冨田拓也 (とみた たくや)

 昭和54年(1979) 大阪府生れ。

 師系なし。平成13年より句作をはじめたという。平成14年第1回芝不器男俳句新人賞受賞。

 句集:『青空を欺くために雨が降る』

     みどり子に蟻の行列近づきぬ

     雁啼くや夜目にも見ゆる針の山

     気絶して千年氷る鯨かな

     天の川ここには何もなかりけり

 

富田潮児 (とみた ちょうじ)

 明治43年(1910)〜平成23年(2011)101歳。 愛知県生れ。  「若竹」名誉主宰。

 村上鬼城に師事。10代後半に両眼失明。昭和3年「若竹」創刊、平成2年まで主宰。父は俳人の富田うしほ。

 句集:『夢窓庵随唱』『富田潮児句集』

     おさな児の欲なくあがり絵双六

     眼に光覚え半夏に奇蹟待つ

     見えぬ眼に光を覚え菊の酒

     物怪といふ名をもらひ生身魂

 

富田敏子 (とみた としこ)

 昭和11年(1936) 東京都生れ。 無所属

 元「東虹」同人。現代俳句協会会員。第5回雪梁舎俳句大賞受賞。

 句集:『もみじ坂』『水位』『ものくろうむ』『天上飛花』

      ただようておりくず切を噛んでおり

      水に浮く桃どこからも攻められず

      風の服つくる北風役の子に

      天上飛花大いなる気につつまれる

      撫子という日本語がなんだか好き

 

富田木歩 (とみだ もっぽ)

 明治30年(1897)〜大正12年(1923)26歳。 東京生れ。

 原石鼎の指導、臼田亜浪に師事。「石楠」入会、のち水巴の「曲水」に拠る。2歳の時歩行不能となり、又貧困のため教育を受けられなかった。関東大震災で横死。

     我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮

     背負はれて名月拝す垣の外

     かそけくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花

     女視(した)しう夜半を訪ひよる蒸し暑き

 

富安風生 (とみやす ふうせい)

 明治18年(1885)〜昭和54年(1979)93歳。 愛知県生れ。東京都在住。  「若葉」主宰

 吉岡禅寺洞、高浜虚子に師事。「天の川」創刊同人。のち「ホトトギス」に同人。東大俳句会に参加。昭和3年「若葉」創刊。昭和46年日本芸術院賞受賞。日本芸術院会員。※旧制一高・東京帝大法科出身

 句集:『草の花』『十三夜』『松籟』『冬霞』『村佳』『母子草』『朴落葉』『晩涼』『古稀春風』『愛日抄』『喜寿以後』『傘寿以後』『米寿前』『齢愛し』『走馬燈』 

     よろこべばしきりに落つる木の実かな 

     みちのくの伊達の郡の春田かな

     何もかも知つてをるなり竈猫 

     まさをなる空よりしだれざくらかな

     夕顔の一つの花に夫婦かな

     こときれてなほ邯鄲のうすみどり

 

友岡子郷 (ともおか しきょう)  

 昭和9年(1934)〜令和4年(2022)87歳。 兵庫県生れ。「椰子」代表・「柚」
 飯田龍太に師事。大学在学中に「ホトトギス」「青」に投句。昭和33年「青」の編集を担当。昭和43年「青」を辞し飯田龍太の「雲母」に入会。同49年同人。平成10年 「白露」創刊に参加。「柚」同人。「椰子」代表。第6回四誌連合会賞・第1回雲母選賞・第25回現代俳句協会賞・第6回俳句四季大賞・第24回詩歌文学館賞・第5回小野市詩歌文学賞・第52回蛇笏賞受賞。※甲南大学文学部出身。

 句集:『遠方』『日の径』『未草』『春隣』『風日』『翌』『雲の賦』『友岡子郷俳句集成』『黙礼』『海の音』  著作:『飯田龍太鑑賞ノート』『天眞のことば』ほか 

    柳散る直路直歩のかなしみ湧き

    跳箱の突き手一瞬冬が来る

    蛇崩れの坂を水仙負ひ下る

    返りはな知己のひとりは国の外

    鯔(いな)がとび鯔(ぼら)とび父の日なりけり

    倒・裂・破・崩・礫の街寒雀

    夕刊のあとにゆふぐれ立葵

    手毬唄あとかたもなき生家より

 

豊口陽子 (とよぐち ようこ)

 昭和13年(1938)東京生れ。埼玉県在住。 「LOTUS」

 安井浩司に師事。「山河」「流域」「國」「未定」を経て「LOTUS」創刊同人。

 句集:『花象』『睡蓮宮』『藪姫』

      信濃という貌ありわらわら雪が降る      

      美濃の鯉相聞の墨ながしけり

      水底の春よ詩人はP(リン)である

      絶景や大蛤の開かずの間

      死は途中紅梅われを過ぎゆけり

 

豊田都峰(とよだ とほう)

 昭和6年(1931)〜平成27年(2015)84歳。京都生れ。 「京鹿子」主宰

 鈴鹿野風呂、丸山海道に師事。昭和23年「京鹿子」入会。海道主宰没後、平成11年主宰を継承。第10回俳句四季大賞・平成24年度京都市芸術振興賞受賞。※立命館大学文学部出身。

 句集:『野の唄』『川の唄』『山の唄』『木の唄』『雲の唄』『風の唄』『草の唄』『土の唄』『水の唄』    

      白梅とわかるとほさでひきかへす

      竹秋や夕日はいつもななめなり

      獅子舞のまず大空を噛みにけり

 

豊長みのる (とよなが みのる

 昭和6年(1931)兵庫県生れ。 「風樹」主宰

 山口草堂に師事。「南風」編集同人。昭和61年「風樹」創刊主宰。日本詩歌句協会会長。昭和41年南風新人賞受賞。

 句集:『幻舟』『一会』『即今』『風濤抄』『阿蘇大吟』『北垂のうた』『天籟』『天啓』『天望』 著作:『俳句逍遥』『俳句のこころ』ほか 

     オリオンの楯かうかうと年動く

     峭崖や花しろしろとして散らす

     雲の峰おもてを上げて歩むべし

 

豊山千蔭 (とよやま ちかげ)

 大正3年(1914)〜平成15年(2003)90歳。福岡県生れ。青森県在住。 「海程」「寒雷」

昭和27年「寒雷」入会。「寒雷」「海程」「暖鳥」同人。第14回現代俳句協会賞・第29回青森県文化賞受賞。※北海道帝大林学科出身

 句集:『蟹の鋏』『氷結音』ほか

      川涸れて小石ひしめく夜の盲

      縄綯ひて夜の耳白む結氷音

      蟹の鋏が硝子を擦って満月なり

 

鳥居真理子 (とりい まりこ)

 昭和23年(1948) 東京都生れ。 「門」主宰・「船団」

 昭和62年鈴木鷹夫の「門」創刊とともに入会。同人。平成9年「船団」にも属す。同人。令和2年「門」主宰を鈴木節子より継承。第12回俳壇賞・第8回加美俳句大賞受賞。

 句集:『鼬の姉妹』『月の茗荷』

     鉄棒に折りたる花の夜のからだ

     陽炎や輪にすれば紐おそろしき

     天上にちちはは磯巾着ひらく

     福助のお辞儀は永遠に雪がふる

     遺書のごと雪がふるふるお母さん

 

鳥居美智子 (とりい みちこ)

 昭和7年(1932) 東京都生れ。 「ろんど」

 角川源義に師事。「河」「人」を経て「ろんど」所属。昭和51年河新人賞・人賞受賞。

 句集:『桜の州』『すみれ角力』『水鳥』『夢疲れ』

      遠き日もすみれ角力に負けしかな

      たちばな色の鈴縫ひ込まむ夏布団

      罅(ひび)に蟻湧く観音に詣でけり

 

 

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